老人とは?その定義について改めて考えてみよう

健康長寿という言葉を耳にする機会が増えてきました。高齢者でも元気に仕事に打ち込んだり、趣味に没頭したりする人が増加しているのは、喜ばしいことですよね。健康で長生きする人が多くなるにつれ、従来の老人という定義に対して抵抗感や違和感を覚える人が増えてきているのも事実です。

高齢者の定義について改めて考えてみましょう。

従来の高齢者の定義と医療保険制度

WHO(世界保健機関)の定義では、高齢者とは65歳以上の人のことを指す言葉です。この定義は、日本をはじめ、アメリカなど多くの先進諸国で取り入れられています。また、高齢者のなかでも、65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と言います。

これは、日本では健康保険の区分でも使用されている区分です。74歳までの前期高齢者は、それ以下の年齢層と同じく国民健康保険制度の対象となります。一方、75歳以上の老人ついては、後期高齢者医療制度の対象者です。

後期高齢者の医療制度では、国民健康保険の加入者と比べて窓口における医療費の自己負担が少なくて済みます。健康への留意が必要となる高齢者に積極的な医療機関の受診を促すためにも、自己負担が少ない制度は維持されることが好ましいでしょう。

高齢者の定義の再考が促される現状

健康長寿の時代に突入している日本では、65歳を過ぎても現役で働き続けている人も珍しくない時代になってきました。65歳を老人扱いすることに対して違和感を覚える人が増え、60代はまだまだ若々しいというイメージを抱いている人も増えています。

そんななかで、従来の老人の定義を見直すことが必要だという声も上がっているのも事実です。意識調査の具体的な数字を見てみましょう。平成26年度の内閣府による高齢者の年齢に関する意識調査を参照すると、「あなたは一般的に何歳頃から高齢者だと思いますか」という質問に対しては、70歳以上と答えた人の割合が29.1%と最も高くなっています。

75歳と答えた人の割合が27.9%、80歳以上と答えた人が18.4%と高い割合である一方で、60歳以上と答えた人は全体のわずか1.1%、65歳以上と答えた人は6.4%でした。60代はまだ老人とは呼ばないと考えている人がいかに多いかを示す結果となっています。

身体機能や認知機能が向上している事実

老人の定義についての意識的な変化が大きいことは、上記のデータで確認できましたが、健康度の向上を示すデータはあるのでしょうか。ここでは、身体能力が向上している事実を示すデータを見てみましょう。国立長寿医療研究センターでは、高齢者の通常歩行速度を測定しています。

60歳以上の高齢者を5歳刻みで区分し、データを測定したところ、第一次調査(1997年~2000年)と比べて第五次調査(2006年~2008年)における歩行速度の方が、全ての年齢層において速くなっていました。

歩行速度は、健康の指標ともされるものです。

速い歩行速度で歩けることは、高齢者と呼ばれる世代になっても、なお健康的であり続けているという証拠でもあります。認知機能についての調査結果についても、身体能力と同様に年々改善されている傾向がみられます。

自分自身が加齢を意識する瞬間とは?

高齢者の定義の見直しが必要な時代になってきているとは言え、人それぞれに加齢に伴う変化を感じることがあるのは事実です。平成26年度の内閣府による高齢者の年齢に関する意識調査では「自分が高齢者だと感じるのはどのような時ですか」という質問も用意されていました。

いくつかの選択肢のなかから、最もあてはまるものをひとつ選択してもらったところ「体力が変化したと感じた時」と答えた人が58.0%と、全体の約6割を占めていました。加齢に伴って、階段を昇るのが辛いと感じたり、息切れしやすくなったりしていると感じている人も多いのではないでしょうか。

次いで回答者数が多かった答えが「記憶力が変化したと感じた時」で、回答した人の割合は18.6%でした。人によって高齢に差し掛かったことを意識する瞬間は異なるものの、体力や記憶力の変化に敏感な人が多い事情がうかがえます。

「周囲の人から高齢者として扱われた時」と回答した人が5.8%いることから、周囲の対応によっても意識に変化がみられることが分かります。

周囲の支えが必要な高齢者の年齢はどれぐらい?

平成26年度の内閣府による高齢者の年齢に関する意識調査の調査結果を引き続き見ていきましょう。「あなたは一般的に支えられるべき高齢者とは何歳以上だと思いますか」という質問に対する回答としては、80歳以上と回答した人の割合が25.2%ともっとも高くなりました。

75歳以上と回答した人が23.4%、70歳以上と回答した人が18.1%です。

この調査結果からも、老人を65歳以上と定義するのには違和感を覚える人が多いという状況がうかがえます。70代もしくは80代ぐらいになれば、周囲の支えが必要な高齢者であるという意識を持っている人が中心だと言えるでしょう。

なお、この調査において「年齢では判断できない」と答えた人が19.9%に上るという点は、注目すべき点として挙げられます。年齢という数字にこだわることなく、不自由さを感じている人に自然に手を差し伸べて支えられる社会をつくることが大切です。

健康寿命の定義とは?

健康寿命とは、日常生活が健康上の問題によって制限を受けることなく、健康的に生きられる期間のことを指す言葉です。平均寿命と健康寿命の間には男性では約8年、女性では約12年差があると言われています。平均寿命が伸びているのは喜ばしいことですが、健康に問題を抱えつつ生きていくことは、様々な面で負担に感じることも多いでしょう。

健康寿命を伸ばして、健康長寿を目指すことが大切です。健康長寿を実現するには、生活全般に気を配ることが求められます。栄養バランスの取れた食事をすることに加えて、睡眠時間をしっかり確保するようにしてください。

人間は、加齢に伴って必要な睡眠時間が短くなる傾向がありますので、若い頃のようにぐっすり眠れない…と深く思い悩む必要はありませんが、睡眠不足が続いた場合は、医療機関に相談することも重要です。

高齢者の定義を見直そう

平均寿命、健康寿命が共に伸びている時代にあって、65歳以上を老人として扱うことに対しては違和感や抵抗感を覚える人が増えてきました。高齢者の身体機能や認知機能が実際に向上していることを示すデータも残されています。

健康長寿の社会を実現するとともに、高齢者の定義付けを見直すことが求められつつあると言えるでしょう。